僻地で陸マイラーの忘備録

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地域医療にて勤務中の総合診療医夫婦の日頃思ったこと、マイル、診療、子育てなどつれづれなるままに書くブログ

“僻地で陸マイラーの忘備録”

創傷治癒の昔と今

その昔

「擦り傷なんてツバつけとけば治るんじゃ!」

 

やや昔

「ヨードチンキで消毒してガーゼで覆うんじゃ!」

 

「傷は水道水でよく洗う!その後の消毒はせず、創傷被覆材にて湿潤環境を作り、表皮の形成を促します!」

 

 

 

上に書いたので大体わかるかとは思いますが、今日は傷の治し方の変遷についてです。

今は昔とは全くもって傷の治し方が違います。

まずは、昔行われていた治療についてもざっくり解説していきたいと思います。

 

 

その昔

「擦り傷なんてツバつけとけば治るんじゃ!」 

絶対ダメです、やめてください。

口腔内には本当に数多くの細菌がいます。人間の口の中は数千億個もの細菌が存在しています。汚いです、ほんと。

 

 

 

やや昔

「ヨードチンキで消毒してガーゼで覆うんじゃ!」

昔は、創部の感染を防ぐ目的でヨードチンキを使ってた時代がありました。今でも、田舎の病院へ行くと、ベテランの看護師さんが問答無用で傷口にヨードチンキを塗る光景を目にすることがあります(同期の女医さんは、ベテラン看護師さんと本気で戦ってました・・・・)

しかし、消毒をしたところで創部の感染を防ぐことはできません。正常な細胞までも障害し、創傷治癒を遅延させるだけです。

化膿した傷にポピドンヨードで消毒をしても、人体の細胞は障害されるのに細菌は生き残る結果となることが報告されています。

 

そもそも、創部が感染する原因となるのは

 

1)創部に壊死組織が残っている場合

2)動物(人含む)咬傷の場合

3)縫合糸、血腫、異物がある場合

 

となります。

2)は、動物の口腔内に多数の細菌が存在するために感染するのですが、1)と3)は原因となる物質があって、それを元に感染するのです。

「感染してその後組織が壊死する」のではなく、「壊死した組織(や人工物)に細菌が付着して感染する」のです。

つまり、おろしたての鋭利なカッターナイフなどスパッと切った場合に、感染する可能性が高いかと言えば、否だということがわかると思います。もちろん消毒など不要です。

 

それから、ガーゼで創部を覆うことについてです。経験したことのある方なら分かるでしょうが、傷口を直接ガーゼで覆うとどうなりますか?

乾燥して傷とガーゼがひっつきますよね。

それを無理やり剥ごうとするとどうなりますか?

形成されていた痂皮(かさぶた)まで一緒に剥がれて、また血が出ますよね。

結果、傷の治りが遅くなるのは誰でも予想がつくと思います。

 

 

 

「傷は水道水でよく洗う!その後の消毒はせず、創傷被覆材にて湿潤環境を作り、表皮の形成を促します!」

 まずは傷の洗浄についてです。十分な量の水道水で創部を洗浄します。でも正直痛いので、洗浄の前にキシロカインゼリー2%®を直接傷口に塗布してしばらく待ちます。この時ラップなどで覆ってあげると効果が高いと言われています。

「水道水で良いのか?水道の水から感染しないのか?」という疑問を持つ方がいらっしゃるいかもしれませんが、日本の水道の水はそもそも綺麗です。わずかに細菌が検出されることはあっても、それは創部感染を起こす原因菌とは異なるものなので問題になることはないです。

 

その後、創傷被覆材を用いて創部を覆います。

創傷被覆材には色々あります。傷口によって使い分けます。

以下いくつかまとめます。

 

新鮮な出血がある創部

アルギン酸塩(カルトスタット®︎など)

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受傷当日で、新鮮な出血があるような創部に使用します。ふわふわしてるので、その上からパーミロール®︎(透明なシールみたいなの)などで密封します。アルギン酸塩は止血能力が高いので、指尖部をばさっと切って出血しているような場合にもとても有効です。

 

出血のない露出部、凸凹している創部、顔面などの人目につくところの創部

薄めのハイドロコロイド(デュオアクティブET®︎など)

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とてもしなやかで、目立ちにくいことから顔などの傷に適しています。最初は創部にピタッとくっつきますが、やがて創面に触れている部分がゲル化するので、傷に直接触れないようにできています。傷が治癒するのに必要な湿潤環境を作れます。

 

乾燥気味の創部

ハイドロコロイド(デュオアクティブCGF®︎など)

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今日は8歳の女の子の背中の擦過傷(受傷後2日目)に使いました。

 

ジュクジュクしている創部

ポリウレタンフォーム(ハイドロサイト®︎など)

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上記のように、シリーズがいろいろあります。浸出液のとても多い、ジュクジュクした傷に適しています。浸出液を吸収して、かつ創部に適度な水分を保持することで創部の治癒を促進します。

個人的にはお年寄りにの挫創や擦過傷によく使います。というのも、お年寄りの皮膚は脆弱なので、あまりテープを使いたくないからです(テープを剥がすときに皮膚が剥がれ、新しい傷を作りかねません)。なので、ハイドロサイト®︎などを創部に当てて、包帯でくるくる巻いていい感じに固定します。

 

 

 

最後に

そのほかにも、ハイドロジェルやハイドロポリマー、ハイドロファイバーといった被覆材がありますが、「怪我しました」の傷は、とりあえず上に挙げた4種の被覆材があれば対応できるんじゃないかと考えています(褥瘡などは別です)。

 

また、貼りっぱなしは良くありません。というのも、万が一創部の感染兆候があっても気づけないことがあるからです。連続7日間貼りっぱなしOKの製品も中にはありますが・・・怪我をして病院に行ったときには、1回行って満足するのではなくて、ちゃんとかかりつけ医から指定された日に行きましょう。医療者側は、基本的には毎日創部を確認しましょう。

 

傷の治し方は昔と今とではこんなにも違います。この記事をどなたが読んでくださっているのかはよくわかりませんが、医療関係者の方で「あっ・・・消毒してたわ・・・」と思う方がいらっしゃいましたら、以下文献、サイトも参考にされてみては如何でしょうか。

 

 

参考文献

  • 「これからの創傷治癒」 夏井 陸 著
  • 「離島発 いますぐ使える!とって隠岐の外来診療 小ワザ 離れワザ」白石吉彦、白石裕子 著
  • 「新しい創傷治癒」http://www.wound-treatment.jp/