2014年11月26日、
これまでに無かったタイプの睡眠薬
「ベルソムラ®︎」が発売されました。
最近、某タレントさんがこの薬とその他2剤を飲んで車を運転して
問題になったことから、知名度が少し上がった薬とも言えますが・・・。
今日は、この「ベルソムラ®︎」について実際の体験(処方経験です、使用経験ではありませんすんません)からつれづれなるままにお話しようと思います。
ベルソムラ®︎の作用機序
昔からあるBZ(ベンゾジアゼピン)系睡眠薬の作用部位は
アルコールが脳に作用する部位と類似しており、
アルコールを飲むと眠くなるのと同様、
BZ系睡眠薬は脳の活動全体を落として眠りに導きます。
ベルソムラ®︎は、覚醒状態を維持する作用をもつ「オレキシン」が結合する
オレキシン受容体をブロックし、覚醒レベルを落とすというもの。
BZ系薬剤の服用をいきなり辞めてしまうと、
反跳性不眠が起きて全然眠れなくなるのと比べて、
ベルソムラ®︎は反跳性不眠が起きにくいとされています。
また、ベルソムラ®︎は入眠困難にも中途覚醒にも効果があります。
BZ系睡眠薬の問題点
BZ系睡眠薬は、昔からある薬で馴染みが深いという点はあります。
しかし、BZ系睡眠薬の問題点が最近取りざたされています。
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依存形成
昔からずーっと、BZ系を飲んでいる人がいます。抗不安薬としての使い方ならいいのですが、睡眠薬として使用している場合には注意が必要です。すでに依存を形成している可能性が高いと言えます。
それが無いと眠れない、という状態です。
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高齢者での転倒リスク
服用により脳全体の活動を低下させるため、夜間トイレに行く際など、うまく脚に力が入らなくて、転倒、大腿骨頸部骨折・・・となる患者さんをたくさん目にしてきました。
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睡眠中の脳活動の低下
BZ系睡眠薬は、「夢をみない」と言われています。実際にBZ系を飲んでおられる患者さんにきくと、皆様「夢はみないねえ・・・」とおっしゃいます。
眠りが深そうで良いじゃないか、と思われるかもしれませんが、震災などの際に携帯に入るサイレン音。これに全く反応できなかったという事態も実際に起きているようです。
ベルソムラ®︎の使い方
何も睡眠薬を飲んでいない状態からスタート
ベルソムラ®︎1錠単剤からはじめます。
基本的には64歳未満は20mg/日、高齢者は15mg/日です。
BZ系睡眠薬などを飲んでいる状態からのスタート
最初の1ヶ月はBZ系睡眠薬に加えてベルソムラ®︎を追加で飲みます。
つまり、1日2種類を飲む、ということです。
「作用が強くなりすぎるのではないか?」と心配される方もいらっしゃいますが、使用経験からして作用が強く出るのは10人に2〜3人ぐらいかなといった感じです。もちろん、ここは僻地であり母体が圧倒的に高齢者ばかりということではありますので、若い人はどうかはちょっと不明ですすみません。
その次の1ヶ月、今度はBZ系睡眠薬を半分に減らし、ベルソムラ®︎はそのままとします。
その次の1ヶ月は、BZ系睡眠薬はその半分(最初の1/4)に減らし、ベルソムラ®︎はそのままとします。
でも、「1/4錠って・・・めちゃ難しくない!!?」って場合が多いので、
その際にはもうBZ系は中止とし、ベルソムラ®︎単剤だけを1ヶ月継続とします。
その後は、どうしても眠れない時だけのベルソムラ®︎頓服として、最終的にはベルソムラ®︎を飲まなくても自然に眠れる状態を目指します。
もちろん、BZを減量した時などにやっぱり眠れないってなる場合もありますので、その時には元の量にもどして、また1ヶ月続けます。
いったりきたりしながら、徐々にBZ系の減量・中止を目指すわけです。
短時間作用型+長時間作用型の睡眠薬を2剤飲んでいる状態からのスタート
とりあえず、どっちか1剤をベルソムラ®︎に即切り替えます。
BZ系1剤+ベルソムラ®︎ という状態になるので、それを1ヶ月継続。
その後BZ系を半量にして1ヶ月継続・・・
あとは1個上に記載してあるのとおんなじようにして行きます。
某タレントさんの処方内容
某タレントさんはBZ系+ベルソムラ®︎を飲んでいる状態でしたから、もともとBZ系睡眠薬を飲んでいる状態からのベルソムラ®︎治療開始の1ヶ月目だったのでしょう。「睡眠薬を2種類飲んでいるのは間違い!!」という批判に対しては、「それは違うよ・・・」と言いたい。すごく言いたい。ものすごく言いたい。
ベルソムラ®︎は悪夢を見るってほんと?
よく言われるのが「ベルソムラ®︎は悪夢をみる」という噂。
でも、よく考えてみるとBZ系を飲んでいる時は夢をみなかった。
ベルソムラ®︎のみの服用になると、自然の眠りと近いので、夢をみる状態になります。要は良い夢も悪い夢も見ます。悪夢を見た、という印象が強すぎて、そのように巷では言われてしまうのかもしれません。
実際に処方してみた感想
BZ系の服用での転倒・骨折例が多いことから、とある病院では、その病院の精神科からの働きかけにより、病院全体でのBZ系の採用自体を切ることになった例もあります。
その病院ではベルソムラ®︎は採用されたままになっています。
実際に自分もしばらく処方してみた感想として、これまでずっとBZ系を飲んでいた患者さんに対して、上記の方法でベルソムラ®︎に切り替えたところ、
「先生、もう睡眠薬は必要ないです。眠れるんですよ。」
という患者さんもちらほらいらっしゃいます。最短で3ヶ月で、睡眠薬そのものから完全離脱出来た例もあります。
その他の方々でベルソムラ®︎に切り替えた人も、徐々に飲む頻度が減り、
「今もう、時々しか飲まないんですよ。」
という人も多数。
もちろん、ものすごくご高齢の方に関しては服薬コンプライアンスの問題もあり、
「そんな飲み方の難しい薬はいらん!今まで通りでいい!!」
と言われてしまうこともありますが・・・(もちろんBZ系服用のリスクはお話しするのですが)。
ずーっとBZ系の睡眠薬を飲んでいる方、あるいは周りにそんな人が居る方、
一度、睡眠薬の内容を再検討してみては如何でしょうか。
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