血液サラサラの薬、
痛み止めのNSAIDs(ロキソニン®︎など)、
飲んでいる人は結構多いのではないでしょうか?
医療者側も、これらのお薬を飲んでいる人に出会う頻度はとても高いと思います。
血液サラサラの薬を飲む理由として、
ある人は脳梗塞をしたから、
ある人は心筋梗塞をしたから、
ある人は心房細動があるから、
またある人は「この薬飲んでたら脳梗塞予防になるから・・・(???)」
バイアスピリン、ワーファリン、DOAC・・・
飲む薬の種類も、飲む理由も、人それぞれだとは思います。
NSAIDsも、肩やら腰やら、色んな所が痛い時に飲みますよね。
今日はそんな血液サラサラの薬、NSAIDsと消化性潰瘍についての話です。
消化管出血にまつわる苦い小噺も、つれづれなるままにさせて頂きます。
血液サラサラの薬と合併症
抗凝固薬・抗血栓薬を飲んでいる人にとって注意すべきはやはり「出血」合併症です。
中でも消化管出血は合併症のうちの約半数を占めるとも言われています。
そのうち、上部消化管出血の主要原因は「胃・十二指腸潰瘍」と「胃炎」です。
抗凝固薬・抗血栓薬とPPI
消化性潰瘍や、潰瘍からの出血の既往がある患者さんで抗凝固薬・抗血栓薬を服用している場合、その薬の種類に関わらずPPI(プロトンポンプインヒビター)を服用させなければなりません。H2RAや胃粘膜保護剤ではダメです(以前よく、抗血栓薬とH2RAを併用されている患者さんが、上部消化管出血で搬送されてくるのを診ておりました・・・既往があったにも関わらずです。残念です)。経験的にも、やはりPPIでなくては消化性潰瘍の再発を予防するのは難しいようです。
また、消化管出血の既往がない患者さんでも、DAPT投与中の方にはPPIを投与しても良いことになっています。
抗凝固薬・抗血栓薬服用患者の消化管出血を起こしたら、薬は止めるの?
まず、内視鏡的治療とPPIの投与を行うことは当然です。
その上で薬の服用に関して考える必要があります。
抗凝固薬に関しては、出血中はヘパリン置換を行うことや、止血確認後の早期内服再開が提案されています。
中でもワーファリンに関しては、ワーファリン休薬後7日目に服薬を再開するのが、消化管再出血の確率も低く、また血栓性イベントも発生しにくいとされています。
抗血小板薬に関しては、中止することによって血栓症のイベントの発生リスクが高い症例では薬を辞めません。
下記が、服薬を中止した場合に血栓症のイベントが発生しやすいと言われている疾患です。
抗凝固薬・抗血栓薬いずれも、消化性潰瘍からの止血が確認できれば早期に再開するのが良いとされています。
NSAIDs潰瘍
お年寄りは特に、膝やら腰やら肩やらを痛めてきます。
それに対して漫然とNSAIDsを出し続けるのは問題があります。
eGFRが60ml/min/1.73m2を切る方が多くいらっしゃるのも一つの理由ですが、もう一つはNSAIDs潰瘍の危険性があるからです。
3ヶ月以上NSAIDsを服用していると、胃潰瘍を10〜15%、十二指腸潰瘍を2%に認めるというデータも出ています。
NSAIDS潰瘍を起こしやすい人としては、以下の通り。
高齢者で、抗凝固薬も内服していて、消化管出血を伴う潰瘍既往歴のある人なんかはリスクの塊としか言いようがありません。
NSAIDsの併用は避けた方がいいのは当然です。
驚きだったのが、座薬にしたからといっても潰瘍の発生率に差がないということです(エビデンスレベルはCではありますが・・・)。
また、潰瘍の既往歴がない人に対して、NSAIDs潰瘍の予防を必要とするかどうかですが、「必要であるので行うように提案する。しかし保険適応ではない」というようにガイドラインには明記されてあります。PPI、PG製剤、H2RAいずれも胃潰瘍・十二指腸潰瘍予防に一定の効果はあるようです。
(消化性潰瘍ガイドライン2015にレバミピドも効果あり、とされてはいるのですが、H2RAの方が明らかに勝ると言われ、レバミピドの効果が否定されている文献も存在します。でもこのガイドラインは2015年のものでもあり・・・悩ましいところです。)
潰瘍既往歴のある人に対してNSAIDsを使わなければならないときには、潰瘍予防のための第一選択薬はPPIになります。また、出血性潰瘍既往歴のある人に対しては、胃潰瘍は十二指腸潰瘍を起こしにくいCOX-2選択的阻害薬セレコキシブ(セレコックス®︎)にPPIを併用するのが推奨されています。セレコックス®︎の適応疾患も、最初はリウマチだけだったようですが、かなり適応が広くなってきており使いやすい薬剤だと思います。
黒色便・赤色便の話
それから、よく研修医に教えるのは
「消化管出血で、黒色便の時には上部(食道・胃・十二指腸など)消化管出血、赤色の便の時には下部消化管出血」
ということ。
ですが、便の色だけでは、どこからの出血かは正確にはわかりません。
というのも、上部消化管出血であっても大量出血であれば赤色の便に、
下部消化管出血であっても盲腸や上行結腸からの出血であれば黒色便になることもあるからです。
次のコラムは、消化管出血にまつわる怖い、そして苦い話です。
小噺
これは私が研修医だった時、研修先の大きな病院での話です。
私の直接の担当の患者さんでは無かったのですが・・・
ある日、おばあちゃんが尿路感染症で入院してきました。
その後抗菌薬を投与して経過を見ていたのですが、数日後から赤色便が出現。
出血源はどこか?便が赤いからおそらく大腸からの出血であろう・・・と試行錯誤している間に吐血し出血性ショックへ。
バイタルも保てなくなり、気管挿管。
どうにかバイタルを立て直し、緊急内視鏡の結果、出血源は十二指腸潰瘍でした。
上部か下部か?出血源がわからない時には、出血性ショックに陥りやすい上部消化管出血を疑って、まずは上部消化管内視鏡をすべきだったのです。
数日後、結局その患者さんは亡くなってしまいました。
もし診療に携わっていた誰かがこのことを知っていて、もし上部消化管内視鏡検査を迅速に行うことが出来れば・・・
当時の私自身も、「診療に携わっていた誰か」のうちの一人であったことには間違いなく、自分自身の不勉強を責めたものです。
さいごに
消化管出血は、消化器内科はもちろん、循環器内科でも、その他の科出会っても比較的出会う頻度が高い疾患だとは思います。
それぞれの症例に合わせた、適切なマネジメントが出来るようになりたいものです。
血液サラサラの薬やNSAIDsを服用している方、
是非とも便の色にはお気をつけを。
参考文献
- 消化性潰瘍診療ガイドライン2015
- 知っていますか?抗血栓療法のための、消化管出血の知識
山下 武志、岡本 真 著
※とてもわかりやすくまとめられており、ありそうでなかった本です。
個人的にオススメしておきます。