初夏に行われた、住民健診。
ここ最近は、健康診断の結果説明に勤しむ今日この頃です。
(患者さんは多くないのに診療時間が足りません)
ここは僻地ですので、パチンコ屋ら競馬やらの娯楽はありません。
なので、毎日の楽しみが
「お酒」
という方がわりかし多い。
この地域での健診率はとても良いです。
だからなのかはわかりませんが、健診の前になるとちょっとお酒を控えて、健診をごまかしごまかしクリア(?)して、またお酒を飲むという素敵な方々もちらほらいらっしゃいます。
・・・心当たりのある方も多いのではないでしょうか?
今日はアルコールと肝疾患についてのお話です。
アルコール依存症スクリーニング
突然ですが、あなたはアルコール依存症ではありませんか?
お酒をよく飲まれる方、下記の質問に答えてみてください。
それぞれの回答が、
0:0点 1:1点 2:2点 3:3点 4:4点 になります。
10問ありますので、合計点を出してみてください。
WHO(世界保健機関)スクリーニングシート
①どれくらいの頻度でアルコール飲料を飲みますか?
0:飲まない 1:月1回以下 2:月2~4回 3:週2~3回 4:週4回以上
②飲酒時は平均して、純アルコール換算で1日にどれくらいの量を飲みますか?
【参考】
ビール中瓶1本=20g、日本酒1合=22g、焼酎(25度)1合=36g、ウィスキーダブル(60ml)=20g、ワイン1杯(120ml)=12g
0:10~20g 1:30~40g 2:50~60g 3:70~90g 4:100g以上
③どれくらいの頻度で、一度に純アルコール換算で60g以上飲むことがありますか?
0:なし 1:月1回未満 2:毎月 3:毎週 4:毎日またはほとんど毎日
④飲み始めると、飲むのを止められなくなったことが、過去1年間にどれくらいの頻度でありましたか?
0:なし 1:月1回未満 2:毎月 3:毎週 4:毎日またはほとんど毎日
⑤飲酒のせいで、普通だと行えることができなかったことが、過去1年間にどれくらいの頻度でありましたか?
0:なし 1:月1回未満 2:毎月 3:毎週 4:毎日またはほとんど毎日
⑥飲みすぎた翌朝、アルコール飲料を飲まないと働けなかったことが、過去1年間にどれくらいの頻度でありましたか?
0:なし 1:月1回未満 2:毎月 3:毎週 4:毎日またはほとんど毎日
⑦飲酒後に罪悪感や後ろめたさを感じたり、後悔をしたことが、過去1年間にどれくらいの頻度でありましたか?
0:なし 1:月1回未満 2:毎月 3:毎週 4:毎日またはほとんど毎日
⑧飲酒の翌朝に夕べの行動を思い出せなかったことが、過去1年間にどれくらいの頻度でありましたか?
0:なし 1:月1回未満 2:毎月 3:毎週 4:毎日またはほとんど毎日
⑨あなたの飲酒により、あなた自身や他の人がケガをしたことはありますか?
0.なし 2.あるが、過去1年間はなし 4.過去1年間にあり
⑩肉親や親戚、友人、医師、または他の健康管理に携わる人が、あなたの飲酒について心配したり、飲酒を控えるように勧めたことはありますか?
0.なし 2.あるが、過去1年間はなし 4.過去1年間にあり
お国によってちょっと基準は異なるようですが、日本においては
12点以上:問題飲酒
15点以上:アルコール依存症
とされています。
あなたは何点でしたでしょうか?
長年にわたってお酒を飲みすぎると何が起こるのか?
短時間に飲みすぎると、「急性アルコール中毒」になるのはよく知られていますよね。
酔い潰れた人の介抱の仕方、という論点で、過去にこの記事も紹介させていただきました。
短時間にたくさんのお酒を飲むのも、時に危険な行為ではありますが、
長年にわたってお酒を飲みすぎると、本当に、本当に色々な影響が出てきます。
次から、アルコールを飲むとどんな弊害が出てくるかをまとめていきます。
アルコール性脂肪肝
アルコールを過剰に摂取し続けることで、肝臓に脂肪が蓄積してくる状態です。肝臓は、CTでは黒く、エコーでは白く写ります。
禁酒により改善しますが、自覚症状は少ない状態なので「脂肪肝があるんだ〜」ぐらいで、そのまま飲み続けてしまう方も少なくありません。
血液検査でわかる異常としては、AST/ALT比の上昇を伴うAST、ALTの上昇、Γ—GTPの上昇、ChE上昇を認めます。中性脂肪も高くなるので、これも健康診断で指摘されてしまうかもしれません。
アルコール性肝炎
アルコールを過剰に摂取し続けていることを背景に、さらに大量の飲酒をきっかけとして発症する急性肝障害です。症状として、腹痛、黄疸、発熱、肝腫大、全身倦怠感、腹水、腹部膨満感、浮腫があり、さらに腎不全、消化管出血、肝性脳症を合併することもあります。
アルコール性肝線維症
自覚症状は乏しく、「脂肪肝がある状態」というのはアルコール性脂肪肝と変わりありませんが、肝臓の線維化が進んできて、肝硬変への進展が危惧される状態です。血液検査では、ChEは低下し、線維化マーカー(ヒアルロン酸・Ⅳ型コラーゲン)の上昇が認められます。
アルコール性肝硬変
肝臓の線維化が進んでしまった状態です。肝硬変が進展してくると、全身倦怠感、腹水、黄疸、女性化乳房、手掌紅斑、くも状血管腫、食道静脈瘤、肝性脳症などを認めます。血液検査ではアルコール性肝線維症で挙げたものに加えて、Plt減少、PT低下、大球性貧血を認めます。
アルコール性肝癌
詳細を書くとめちゃくちゃ膨大になるので割愛させていただきますが・・・よく知られたB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスだけでは無く、アルコールでも癌になります。
その他、アルコール過剰摂取により出てくる弊害
度数の高いお酒を飲みすぎると食道粘膜が障害されますので食道癌の危険性が高まりますし、乳癌のリスクを上げることも明確となっています。さらに、CKD(慢性腎臓病)、高血圧症、高尿酸血症などのよく知られた病気を発症・増悪させますし、低P血症、化膿性関節炎、横紋筋融解症、拡張型心筋症を呈するアルコール性心筋症、アルコール性慢性石灰化膵炎なども発症します。精神科的にはうつ病、認知症、アルコール依存症やそれに関連するウェルニッケ・コルサコフ症候群も挙げられます。
・・・お酒の飲み過ぎの弊害は、予想以上に多そうですよね。
お酒を飲みすぎる人の末路〜入院患者さんの話〜
お酒が好きな人がたくさん住んでいる地域があります。そこの病院に研修に行った時の話です。
患者さんは50代後半の男性、病名はアルコール性肝硬変の末期。病室にはいつも、人の良さそうな奥さんが付き添っています。
まだ患者さんとしてはお若い年齢なのに、どう見ても見た目は70代以上・・・。
それほどに全身がやせ細り、目にはクマが出来、お腹は腹水のためパンパン、食事も全く喉を通りません。
これまで、過剰飲酒のため入院して、退院してはまた過剰飲酒をして入院して・・・の繰り返しだった様で、残念ながらこの様な状態にまで来てしまいました。
コミュニケーションもほとんど取れない状態で、最終的には私の研修期間中にお亡くなりになってしまいました。
さいごに
お酒をいつまでの楽しく飲むには
「適量を守ること」
これに尽きます、ほんとに。
日本酒換算で1合/日未満にしましょう、休肝日を設けましょう。
巷で言われていることばかりです。
アルコール換算表を参考までに下に載せておきます。
アルコール20g=1単位=日本酒1合となります。
お酒は楽しく、適量を心がけましょう。
(下戸遺伝子の私はチューハイ1/2缶でおなかいっぱいです・・・)
参考文献・サイト
- 肝炎診療バイブル 三田英治、平松直樹
- 公益社団法人 アルコール健康医学協会
- 今日の診療サポート 「アルコール」関連