「親切なヤブ医者にはならないようにする」
プライマリケアを志す方、あるいは地域医療に携わっている方であれば、
一度は聞いた事のある言葉ではないかと思います。
地域診療においては、
話をよく聞いてくれる、
人当たりがいい、
そういった医者が、地域住民からは評価される傾向にあります。
もちろん、患者さんの話をよく聞き、親切にすることは大切です。
でも、診断も治療も出来なければ、
それは「親切なヤブ医者」でしかありません。
地域診療においては、診療所や病院に1人か2人かしか医師が居ないことも多々あり、大病院では当然なされる、フィードバック機能がありません。
上級医や他科の診療科の医師から貴重な意見を頂いたり、
カンファレンスにて症例検討をしたり。
そういったことが難しい、あるいは頻度が極端に少ないといったケースが多いです。
「本当にこれでいいのだろうか」と
悩みながら、学びながら、
どうにかこうにか、日々診療を続けています。
今回は、プライマリケアではとてもよく遭遇する、
「風邪」の話です。
風邪は、長い人生で何度も遭遇する病気ですよね。
原因となっているのはウイルスなので、抗菌薬(=抗生物質)は無効だし不要なのは当然のこと、いつの間にか治ります。
でも、体がきついと仕事にさしつかえたり、大事な試合を控えていたり。
1日でも早く治したい、楽になりたいというのが患者さんの心理ですよね。
風邪=PL顆粒 で終了。と
短絡的に考えていませんか?
個々で違う患者さんの症状や年齢などの背景も考慮せず、
画一的な処方をしていませんか?
たかが風邪、されど風邪。
処方内容も患者さんに合わせてカスタマイズすることで、
満足度は違ってくるはずです。
以下、成人の風邪における各々の症状(鼻症状・咽頭痛・咳嗽)への処方について、
つれづれなるままにまとめました。
鼻症状
鼻水、鼻づまり、辛いですよね。
これら鼻症状を緩和するものとして、
抗ヒスタミン薬
充血除去薬
点鼻薬
が挙げられます。
抗ヒスタミン薬
第1世代(ポララミン®など)、第2世代(アレグラ®など)があります。
ちなみにPL顆粒®、ペレックス配合顆粒®に含まれる成分は第1世代抗ヒスタミンになります。
ファーストチョイスは第1世代抗ヒスタミン薬になりますが、運転をしないといけない人や、併存疾患の多い高齢者では第2世代抗ヒスタミン薬がよいとされています。もし高齢者にPL顆粒®を出す時には、ふらつきや転倒のリスクがあることを考慮すべきです。
充血除去薬
麻黄湯・葛根湯・小青竜湯といった、麻黄を含む漢方薬が使えます。
ただし、麻黄にはエフェドリンが含まれ交感神経を刺激するので、知らずに処方すると循環器疾患を悪化させる可能性もあるので注意が必要です(幸い、血圧上昇や冠動脈疾患の増悪などによる死亡例の報告はありません)。
点鼻薬
局所療法として点鼻薬を併用する、という手があります。
クロモグリク酸ナトリウム点鼻(インタール®点鼻)がファーストチョイスとなりますが、
鼻閉感の強い人にはナファゾリン塩酸塩(プリビナ®)を、
アレルギー性鼻炎傾向の方いはフルチカゾンフランカルボン酸エステル(アラミスト®)を考えます。
※悲しいかな、当診療所には点鼻薬は存在しません。
咽頭痛
ファーストチョイスはアセトアミノフェン(カロナール®)、その次はイブプロフェン(ブルフェン®)です。
カロナール®は、1回あたり体重×10mgの頓用または定期内服で対応します。結構な量を使うのですね。ただし、肝疾患・アルコール依存症など、カロナール®が使いにくいな、という方にはブルフェン®で対応します。
アスピリン、ボルタレン®は、風邪と区別が難しいインフルエンザ患者においてReye症候群を発症する可能性があるので、原則として避けます。
喉の痛みに効くとされている、トラネキサム酸(トランサミンカプセル®)も、残念ながらエビデンスがありません。過去よく処方しちゃってましたし、自分ももらってました・・・。
漢方薬で対応するなら、桔梗湯です。漢方薬は、基本的には温服(=お湯に溶かして飲む方法)が良いとされていますが、桔梗湯だけは例外で、冷やした水で内服します。
咳嗽
ファーストチョイスはデキストロメトルファン臭化(メジコン®)になりますが、効果が弱いため、漢方薬が良い適応になります。
使う漢方としては、麦門冬湯。麦門冬湯に含まれるオフィオポゴニンという成分が、気道における抗炎症作用とクリアランス作用を併せ持ちます。
衝撃なのが、コデインリン酸塩(カフコデ®)は風邪に対する咳に対してはエビデンスが無い、ということです。それどころか、尿閉や便秘などの副作用の心配もあります。
また、局所療法として喘息や肺気腫といった閉塞性肺疾患の患者さんにはクロモグリク酸ナトリウム吸入(インタール®エアロゾル)も検討します。
※悲しいかな、当診療所にはネブライザーは存在しません。
以上、風邪の三大症状である
鼻症状 ・ 咽頭痛 ・ 咳嗽
に対する治療まとめでした。
診療所では他科診療科医師や上級医からの
フィードバックはあまり望めませんが、
「この間出した薬、どうだった? 早く楽になった?」に対する、
患者さんからのフィードバックを大切に
診療を続けていきたいと思います。