骨粗鬆症は、整形外科医のみが診る病気ではなく、
プライマリケア医ももちろん診る病気です。
今日は、骨粗鬆症の概要・対象となる患者さん・実際のマネジメントなどなどについて
つれづれなるままに記そうと思います。
※整形外科医(主人)監修あり。
骨粗鬆症とは
WHOの定義では
「骨粗鬆症は、低骨量と骨組織の微細構造の以上を特徴とし、骨の脆弱生が増大し、骨折の危険性が増大する疾患である : A disease characterized by low bone mass and microarchitectural deterioration of bone tissue, leading to enhanced bone fragility and a consequent increase in fracture risk」
日本でも、1996年に骨粗鬆症の診断基準が作成され、
- 脆弱性骨折のある例では骨密度が若年成人平均値(young adult mean:YAM)の80%未満
- 脆弱性骨折のない例ではYAMの70%未満
を骨粗鬆症と診断されることとなりました。
(※脆弱性骨折=わずかな外力で生じる骨折のこと。立った姿勢からの転倒か、それ以下の外力を指す。椎体、大腿骨近位部、橈骨遠位端、上腕骨近位部、肋骨などの部位で生じやすい。)
骨粗鬆症の治療の目的としては、言わずもがな
「骨折危険性を制御し、QOLの維持改善を図ること」です。
骨粗鬆症の有無と、寝たきりや施設入所(=不動化 と定義されます)との関連性は既に研究されており、骨粗鬆症による骨折の予防が、不動化を抑制する可能性が高いと示唆されています。
日本においては、男性は1年間に0.6%、女性は2.3%が新たに骨粗鬆症に罹患すると言われています。発生数としては、年間約97万人だそうです。
では、それだけ多くの患者さんが発生している中で、どんな人を治療対象にしていけばよいのでしょうか。
誰を治療対象とするか
骨粗鬆症とは無縁の、20代の筋骨隆々の屈強な海の男に、骨粗鬆症のスクリーニングをしても意味は無いでしょう。
↓こんな人に骨粗鬆症のスクリーニングはしません。
ではまず、誰をスクリーニングすればよいか。
- 65歳以上の女性
- 65歳未満でステロイド治療を行う予定の(行っている)男女
- 転倒やふらつきのリスクがある男女
これらの方々は比較的骨粗鬆症のリスクが高いと考えられます。
これらの方々に、
- 骨密度検査(YAM値の測定)
- FRAX®
を行い、現在の骨密度と、これから10年以内の骨折のリスクがどのくらいあるかを検討します。
その後、実際の薬物療法の適応とするのは、
- 脆弱性骨折の既往のある人
- 骨密度検査でYAM70%(※YAM70%=Tスコア-2.5)未満だった人
- 骨密度検査でTスコア-1.0~-2.5で、FRAX®で10年以内の骨折のリスクが15%以上である人
- ステロイド全身長期投与(5mg/day以上)を行っているまたは行う予定がある人
になります。
ただし、寝たきりの患者さんや余命が限られている患者さんなどは対象外となります。たとえ骨粗鬆症があっても、寝たきりであれば骨折のリスクは少ないですし、(状況次第ではありますが)余命いくばくもない患者さんに積極的に骨粗鬆症の治療を行うのも微妙なところでしょう。
では、次からは実際の薬の使い方を見ていきたいと思います。
骨粗鬆症治療薬のあれこれ
ビスホスホネート製剤、SERM、カルシトニン、活性型ビタミンD製剤など、
骨粗鬆症の治療薬といっても色々な種類があります。
どの薬をどのように使用していけばよいのでしょうか。
ビスホスホネート製剤(=BP)
第1世代:エチドロネート(ダイドロネル錠®)
第2世代:アレンドロネート(フォサマック®、ボナロン®、ボナロン点滴静注用バッグ)、イバンドロン酸(ボンビバ®)
第3世代:リセドロネート(アクトネル®、ベネット®)、ミノドロン酸(ボノテオ®、リカルボン®)
その他:ゾレドロン酸(リクラスト®)
さすが、骨粗鬆症の治療の根幹となるべき薬だけあって、色々あります。
効果としては、
第1世代<<<<<第2世代・第3世代 と言われています。
エビデンスが多く集まっているものとしては、
アレンドロネート(フォサマック®、ボナロン®)
リセドロネート(アクトネル®、ベネット®)
であるようです。
作用機序
ビスホスホネートは破骨細胞にとりこまれ、破骨細胞はアポトーシスに至るため骨吸収機能が抑制されます。結果として骨密度上昇へと導きます。
適応
- 健康診断で骨粗鬆症と診断された方
- 脆弱性骨折を起こした方
- ステロイド(5mg/day以上)投与中の患者で骨折リスクが高いと判断された方
となります。
実際の使い方
薬の種類とその容量によって
- 毎日内服
ダイドロネル錠(200)、ボナロン錠(5)、フォサマック錠(5)
アクトネル錠(2.5)、ベネット錠(2.5)、ボノテオ錠(1)
リカルボン錠(1)
- 1週間に1回内服
ボナロン錠(35)、ボナロン経口ゼリー(35)、フォサマック錠(35)
アクトネル錠(17.5)、ベネット錠(17.5)
- 4週間に1回内服
ボノテオ錠(50)、リカルボン錠(50)
- 4週間に1回注射
ボナロン点滴静注バッグ900μg
- 1ヶ月に1回内服
アクトネル錠(75)、ベネット錠(75)、ボンビバ錠(100)
- 1ヶ月に1回注射
ボンビバ静注射1mgシリンジ
- 1年に1回注射
ゾレドロン酸 ※後述あり
と分けられます。
使用上の注意点
内服薬は、コップ1杯の水とともに内服し、飲んでから30分以内(ボンビバは60分以内)は横にならないことが必要です。なぜなら副作用として逆流性食道炎や食道潰瘍があるからです。この服薬方法が必ず守れる人でないと処方は難しくなります。
また、3〜5年以上継続してBP製剤を使用すると大腿骨骨幹部骨折などの非定型骨折のリスクが上昇しますので、漫然と使用し続けないことが大切です。
またCCr30ml/min未満ではBP製剤は禁忌になりますので、処方前には腎機能測定を行うことと、国家試験にも出る有名な副作用である顎骨壊死のこともあるので、可能であれば歯科受診を促すことも必要になってきます。
しかし最近は、顎骨壊死に対して懐疑的な論文も出てきているようで、歯科治療に絶対禁忌とは言えない話もあります。
それから、基本的には活性型ビタミンD製剤も併用します。
抗RANKL抗体
デノズマブ(プラリア®皮下注60mgシリンジ®)
2013年6月に発売となった、比較的新しいタイプの骨粗鬆症治療薬です。
作用機序
破骨細胞の分化因子であるRANKL(receptor activator of NF-k B ligand)に結合することで、破骨細胞の分化が抑制され、結果的に骨密度を増加させます。
適応
- 脆弱性骨折の超ハイリスク群の閉経後女性で、BP製剤が使用できない方
- BP製剤で効果に乏しかった方
いずれにせよ骨粗鬆症治療薬の第一選択にはなりません。
実際の使い方
6ヶ月毎に、60mgを1回、大腿部・上腕・腹部のどこかに皮下注します。
半年に1回でいいので、BP製剤(経口)のコンプライアンス不良な方にもオススメです。
使用上の注意点
1本29296円と高価ではあります。経済的な理由で中止を希望されたり、低Ca血症などの副作用が出ない限りは、ずっと使い続けます。使用を中止する場合は骨密度が急激に低下するので、その他の治療に切り替えます。
SERM
ラロキシフェン(エビスタ®)
バゼドキシフェン(ビビアント®)
作用機序
SERM(=selective estrogen receptor modulator 選択的エストロゲン受容体モジュレーター)は、骨に対してはエストロゲン作用を示し、子宮や乳房では抗エストロゲン作用を示します。結果として骨密度の上昇に寄与します。
適応
- 脆弱性骨折の超ハイリスク群の閉経後女性で、BP製剤が使用できない / BP製剤で効果に乏しかった / BP製剤の治療後の維持療法として
- なおかつ、血栓症の副作用を危惧しないで済むほどの活動性のある方
実際の使い方
エビスタ® 1日1回60mg 経口服用します。
ビビアント® 1日1回20mg 経口服用します。
使用上の注意点
男性には使用できません。安全性や有効性が未確立です。
副作用としては上に述べたように血栓症があるので、活動性の低い患者には使いにくい薬になるかと思います。
また、エビスタよりもビビアントのほうが効果が高いと言われています。
副甲状腺ホルモン製剤
テリパラチド(フォルテオ®、テリボン®)
作用機序
本来副甲状腺ホルモンは、腎尿細管からのCa再吸収と、破骨細胞による骨吸収を促進して血清Caイオン濃度を維持する働きを持ちます。不思議と、間歇投与をすることによって骨形成を促進することが知られています。
適応
「日本の骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015」では
- BP製剤、SERMなどの治療でも骨折を生じた方
- 高齢で、複数の椎体骨折や大腿骨近位部骨折を生じた方
- 骨密度低下が著しい方
においてテリパラチドの使用を推奨しています。その他、
- BP製剤が副作用のため使用できない方
- ステロイド骨粗鬆症で骨折した方
にもよい適応です。
基本的に、テリパラチドは骨折の二次予防に効果ありとされています。
実際の使い方
フォルテオ®は1日1回の自己注射であり、皮下注です。
テリボン®は週に1回の病院での注射であり、皮下注です。
長期投与で発がん性が指摘されているので、
フォルテオ®、テリボン®は24ヶ月に使用が制限されています。
使用上の注意点
テリボン®は、フォルテオ®よりも投与量が多くなるので、副作用が出やすくなります。副作用としては吐き気・嘔吐・めまい・頭痛・高尿酸血症などです。注射後は血中Ca濃度が高くなるので、尿にCaが出ると困る腎結石・尿管結石患者では慎重投与となっています。
血清Ca濃度は、はじめは月に1回、その後は3ヶ月に1回程度の間隔で測定することが推奨されています。
また、基本的には活性型ビタミンD製剤を併用します。
カルシトニン
サケカルシトニン(カルシトラン®)※鮭由来
エルカトニン(エルシトニン®)※鰻由来
作用機序
カルシトニンは、甲状腺の傍濾胞細胞から分泌されるホルモンの一種であり、破骨細胞に結合して骨吸収を抑制する働きがあります。
適応
- 骨粗鬆症による疼痛のある患者 ※保険適応が決まっています
実際の使い方
カルシトラン® 週2回 1回10単位筋注
エルシトニン® 週2回 1回10単位筋注
もしくは 週1回 1回20単位筋注 です。
使用上の注意点
圧迫骨折後10日以内の急性期に投与開始した場合に痛みが有意に抑えられた、という研究結果があります。発症してから3ヶ月以上の慢性疼痛では効果がありません。よって、急性期にのみ使用し、使用期間は3ヶ月以内にとどめるのが効率のよい使い方となると思われます。
骨密度を上げる効果には乏しいという意見も聞かれます。
また、鮭・鰻にアレルギーのある人には使用できません。
活性型ビタミンD製剤
カルシトリオール(ロカルトロール®)
アルファカルシドール(アルファロール®、ワンアフルファ®)
エルデカルシトール(エディロールカプセル®)
ファレカルシトリオール(フルスタン®、ホーネル®)
基本的にはBP製剤やテリパラチドと併用します。単独の処方のみでは骨折予防効果は乏しいとされています(が、実際は単独で処方するケースもあるようです)。
ビタミンK2
メナテトレノン(グラケー®)
ビタミンKが骨密度を高めるという報告がありますが、あまりエビデンスレベルは高くないようです。また、ワーファリン使用中の患者には処方できません。
女性ホルモン製剤
エストリオール(エストリール®)
エストラジオール(エストラーナ®、ジュリナ®)
エストラジオール・レボノルゲストレル(ウェールナラ配合錠®)
ホルモン補充療法は、プライマリケア医には敷居の高い治療法になります。というのも、副作用として冠動脈疾患や浸潤性乳癌、静脈血栓症があるからです。閉経に伴い、ホルモンが減少することで骨粗鬆症が進んでくるので、それを補充するのは理論上はいいかもしれませんが、骨粗鬆症の治療が長期に及ぶこと、副作用の重篤さを考慮すると、安全にこれらを投与することは難しいと思います。
常用薬で、減量・中止を検討すべきものについて
転倒・骨折リスクを上昇させる薬剤として、PPI、BZ系睡眠薬、抗凝固薬、ループ利尿薬などがあります。また血圧の下げ過ぎもふらつきの原因となります。
抗凝固薬などは減量や中止は困難かとは思いますが、BZ系睡眠薬などは、ベルソムラ®などをうまく活用することで睡眠薬全般を中止することが可能です。
よければこちらも併せてご覧下さい。
僻地診療所の問題点
①骨密度検査が出来ない
レントゲンは撮れても、骨密度測定が出来ない。そんな医療施設も少なくないと思います。そのような時には、FRAX®は1つのよいツールになると思います。
インターネットで簡単に出来ます。
(http://www.shef.ac.uk/FRAX/tool.jsp?lang=jp)
実際に使ってみました。簡単に使えるので、ネットさえつながっていればOKと思います。
しかし、ステロイドの使用量や使用期間が考慮されていないことや、BZ系睡眠薬などの転倒、骨折リスクを上昇させる薬剤の使用の有無が考慮されていないことから、実際の骨折リスク評価の厳密な判断材料となるのかはちょっと疑問です。それに75歳以上の患者さんにFRAX®を計算すると、ほとんどの患者さんで10年以内の骨折率が15%以上に該当してしまいます。
うちの診療所に来る方は、ほぼ半分が75歳以上の方です。
・・・実際に目の前の患者さんに治療をするのかどうか、総合的に見極めないといけませんね。
②服薬コンプライアンスがよくない
基本的には高齢の患者さん相手になりますので、服薬コンプライアンスが問題になってくると思います。
骨粗鬆症の薬物治療における服薬状況は、治療開始後1年で45.2%が処方通りの服薬が出来ず、5年以内に52.1%が脱落してしまうとされています。医師、看護師、ヘルパー間の連携を強化し、服薬の重要性を繰り返し訴えることが最も効果的なコンプライアンス向上の方法と考えられます。しかし、僻地特有の「元気で独居の高齢者」となると、ヘルパーなどの介入を嫌がったり、こだわりが強かったり・・・なかなかこちらの思うようにならないケースも少なくないのが現状です。
そんな方に考慮したいのが、次に記述する新しい治療法です。
骨粗鬆症の新しい治療法
骨粗鬆症の治療薬は常に進化を続けています。
ゾレドロン酸は、以前までは悪性腫瘍の骨転移による高カルシウム血症の治療薬という位置づけでしたが、2016年9月28日、骨粗鬆症治療薬としてのゾレドロン酸水和物(リクラスト点滴静注液)の製造販売が承認されました。1年に1回、外来で15分〜の点滴のみで骨粗鬆症の治療が出来るのですから、すごいことです。しかし、発熱(39.3%)と関節痛(10.8%)の副作用が認められていることには注意が必要かもしれません。それでも、服薬コンプライアンスに問題がある患者さんには、とても良い治療法かと思います。
以上、骨粗鬆症の治療についてつれづれなるままにまとめてみました。
うまく患者さんをマネジメントできる様に尽力したいものです。
ステロイド性骨粗鬆症の治療についてはこちらをご覧ください。
「BP製剤や抗RANKL抗体を使用している骨粗鬆症の患者さんに侵襲的な歯科治療を行う時、それら薬剤は休薬しなければならないのか?」という点についてまとめた記事もありますので、よければご覧下さい。