僻地で陸マイラーの忘備録

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地域医療にて勤務中の総合診療医夫婦の日頃思ったこと、マイル、診療、子育てなどつれづれなるままに書くブログ

“僻地で陸マイラーの忘備録”

夜間頻尿の話

「脳梗塞予防のために、夜寝る前にコップ1杯の水を飲んでくださいね。」

 

テレビでもよく聞くこの言葉。

過去、患者さんに言ってしまったことがあるようなこの言葉。

本当は、そんなに意味がないって知ってましたか?

今日は夜間頻尿の話です。

 

 

今日は、定期薬処方ついでに夜間頻尿で困っている患者さんが来ました。

昼の間は頻尿はないけれども、夜になると多い時で4〜5回トイレに起きるとのこと。

主要下部尿路症スコア(Core LUTS Score CLSS)をつけてみると、

夜間頻尿だけではなく、尿勢低下、残尿感の自覚がありました。

尿勢低下と残尿感があることから、前立腺肥大症はありそうですが・・・

 

そして主要下部尿路症スコアの最後の質問。

「現在の排尿の状態がこのまま変わらずに続くとしたら、どう思いますか?」

「いやだ」にマルをつけておられます。

これはなんとかしなくてはなりません。

 

 

高齢者の夜間頻尿にはガイドラインが存在します。

しかし、2009年発刊と若干昔のようです。

 

 

色々論文を調べてみると、日本老年医学会雑誌に2つ、論文特集がありました。

つれづれなるままに要点をまとめてみようと思います。

 

 

 

 

「高齢者夜間頻尿の病態と対処」

「高齢者夜間頻尿の病態と対処」

青木 芳隆  横山 修  (日本老年医学会雑誌 2013;50;434-439)

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  • 夜間頻尿の定義

夜1回以上起きること。でも実際の臨床では2回以上起きることを問題としていることが多いようです。

 

  • 夜間頻尿の原因

過活動膀胱、前立腺肥大症、脳卒中慢性期、糖尿病、尿崩症、心因性多尿、慢性心不全の初期症状、心不全、睡眠時無呼吸症候群、睡眠障害、水分の過剰摂取、カフェインやアルコールの摂取などが挙げられます。

 

 

  • 実際の対処、治療法

  • 薬物治療
  • 糖尿病や心不全などの泌尿器以外の基礎疾患があればその治療を
  • 過活動膀胱による頻尿に対しては、半減期の短い抗コリン薬
  • 前立腺肥大による頻尿に対しては、α1遮断薬や5α還元酵素阻害薬
  • ただし、過活動膀胱、前立腺肥大に対する夜間頻尿の改善効果は劇的ではなく、平均0.5〜1回程度の減少と言われているそうです。

 

  • 非薬物治療
  • 夜間の飲水過多を避け、1日の飲水量を体重の2〜5%とする
  • 夕方あるいは夜間に1日20分程度の散歩などの運動を行い、間質に貯留した水分を運動による筋肉ポンプ作用で血管内に戻す。汗としても体外に水分を排出する
  • カフェイン、アルコールの摂取を控える
  • 眠りやすい環境を作る(照明を暗くする、テレビをつけっぱなしにしない)

※非薬物治療だけで、夜間排尿回数が1回以上減少する例が半数以上とのことです。

 

 なるほど・・・夜間頻尿の概要は理解できました。

 

 

 

 

次に、この論文。

「水分を多く摂取することで、脳梗塞や心筋梗塞を予防できるか?」

「水分を多く摂取することで、脳梗塞や心筋梗塞を予防できるか?」

システマティックレビュー

岡村 菊夫、鷲見 幸彦、遠藤 英俊、徳田 治彦、志賀 幸夫、三浦 久幸、野尻 佳克 (日本老年医学会雑誌 2005;42;557-563)

 

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「脱水により血液の粘稠度が上昇し、脳梗塞心筋梗塞の危険性が高くなる可能性があることは理解できるが、脱水状態にない高齢者が水分を多く摂取することでそれらの可能性が回避できるのか?」

をテーマに、色んな論文(611論文中22論文をセレクト)を検討したみたいです。

 

ざっくり要点を説明すると、

「血液粘稠度の上昇は、動脈硬化性疾患における脳梗塞や心筋梗塞の危険因子の一つであり、朝方には粘稠度が上昇するため朝方は脳梗塞の発生頻度が高くなる。こうした背景を元に、内科医やマスコミが積極的に水分を摂取するように推奨するようになった。

しかし、水分摂取による血液粘稠度の低下が脳梗塞の発症率を低下させたという証拠を示した論文は存在しなかった。」

 

 

脳卒中や心筋梗塞のガイドラインに飲水に関する記述はありません。

しかし、脱水と脳梗塞・心筋梗塞との関連性は大きいので、脱水に陥りやすい人(虚弱高齢者など)の同定をしっかり行い、体調が悪くなった時に脱水にならないように啓発していくことは大切でしょう、とのことでした。

 

 

 

まとめ

以上、夜間頻尿の話でした。

なんとなく良かれと思って言ったことが、患者さんの苦痛に繋がってしまわないように日々気をつけたいものです。