僻地で総合診療をしていると、
「肩が痛いんです」
という患者さんがまあまあ来られます。
研修医時代、「肩の痛み」に初めから対応することはほぼありませんでしたので、僻地で診療するようになってから、戸惑うことも多くありました。
が、戸惑ってばかりもいられなませんので、自分の忘備録も兼ねて
「肩が痛い」(肩関節疾患)への対応をまとめようと思います。
肩が痛いのは、本当に肩関節の痛み?
「肩が痛い」のは、本当に肩関節の疾患からくるものでしょうか?
患者さんが思う「肩」と、我々の思う「肩」は同じものでしょうか?
「肩」といっても、三角筋の部分を指す場合と、僧帽筋のところを指す場合があると思います。
その痛みの部位によって、どこが原因で痛みが発生しているのかどうか推察することができます。
- 肩関節由来:三角筋(上腕外側)の痛み
- 頚椎由来:僧帽筋付近の痛み
と分類され、大まかに言えば「ブラジャーの肩紐の外側か内側か」で区別することができます。
ブラジャーの肩紐の外側なら肩関節由来の痛みで、
ブラジャーの肩紐の内側なら頚椎由来の痛み(のことが多い)というわけです。
また、首を動かすことによって痛みが生じるのであれば頚椎由来であることが多く、これも肩関節由来なのか、頚椎由来なのかを区別する手段の1つになります。
肩関節由来の痛みの鑑別診断
大まかに、「肩が痛い」と言って来られる患者さんの肩関節疾患は、
- 五十肩=肩関節周囲炎=肩峰下滑液包炎=frozen shoulder
- 上腕二頭筋長頭腱炎
- 腱板断裂
- 石灰性腱板炎
- (肩峰下インピンジメント症候群)
で、多くはカバーできるものと思われます。
それでは、それぞれの疾患について概要を見ていきます。
五十肩=肩関節周囲炎=肩峰下滑液包炎=frozen shoulder
40〜60代で女性にやや多い。他動的であっても上まで腕が上がらず、動かせる最大可動域の部分で痛みが生じる。
肩関節を構成する骨、軟骨、靭帯、腱などが劣化して、肩関節の周囲の組織が炎症を起こすことが原因となる。
Freezing phase、Frozen phase、Thawing phaseの3つの経過をたどる。
Freezing phase:発症から4週間以内の疼痛が激しい時期
Frozen phase:発症から3〜12ヶ月以上の、拘縮が生じ日常生活で支障を来す時期
Thawing phase:痛みも肩の動きも改善してくる時期
上腕二頭筋長頭腱炎
肩関節の酷使後に急性に起こる。Spped test陽性となる。
Speed test:肘を伸展位にしたまま前方挙上して抵抗を加えると、肩関節前方の結節間溝に圧痛が生じる。
繰り返し炎症が起こると、上腕二頭筋長頭腱が断裂し、popeye sign(上腕二頭筋の筋腹が本来の位置よりも肘の方に垂れ下がって見える所見)が見られるようになる。このpopeye signがあるとその何割かは棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋で構成される腱板のいずれかが断裂(特に肩甲下筋に多い)しているとされる。
腱板断裂
50歳以上に多い。他動的であれば肩の高さまで腕が上がるが、90°付近で痛みが生じる。
多くは棘上筋及び棘下筋に起こり、3割程度に前方の肩甲下筋腱の損傷を合併する。
単純X線写真においては、Cuff Tear Arthropathy所見が認められる。
Cuff Tear Arthropathy:広範腱板断裂に合併する、二次性の変形性肩関節症。上腕骨頭が上昇して肩峰に衝突しており、上肢を挙上する際に肩峰を支点として行なっている状態(下記単純X線写真参照)。
石灰性腱板炎
40〜50代の女性に好発。誘引のない急な肩関節痛、夜間痛で発症する。
単純X線写真において、腱板に石灰化を認める(下記X線写真参照)。
急性期には肩関節へのステロイド注射が著効する。
(肩峰下インピンジメント症候群)
※「疾患名」ではなく「症候群」であることに注意が必要。
肩挙上時に、上腕骨骨頭の大結節が烏口肩峰アーチを通過する際、腱板が肩峰下と衝突し、疼痛を引き起こす病態。腱板断裂や石灰性腱板炎によっても引き起こされる。
肩を受動的に挙上して肩峰下に疼痛があれば可能性が高い。
painful arc signやインピンジメントサインが陽性となる場合もある。
- painful arc sign:肩関節を外転挙上する際に、外転60°〜120°の間で肩外側の痛みが増悪すること。
- インピンジメントサイン(Neer / Hawkins-Kennedy)
①Neerの手技:肩甲骨を押さえながら、患肢を内旋位にして他動的に屈曲(前方挙上)すると痛みが誘発される。
②Hawkins-Kennedyの手技:肩甲骨を押さえながら、約90°屈曲(前方挙上)した上肢を他動的に内旋させると痛みが誘発される。
注射内容・頻度・手技など
NSAIDsをはじめとした消炎鎮痛、リハビリテーション、生活指導ももちろん大切ですが、特に石灰性腱板炎などSAB(肩峰下滑液包)注射が著効する疾患もあるため、SAB注射は整形外科医でなくとも出来るに越したことはありません。
<注射内容の例>
痛みが強い場合:
ケナコルト-A®︎40mg/1ml 0.5ml + キシロカイン®︎1% 4ml
(ケナコルト®︎10mg/1ml 1ml + キシロカイン®︎1% 9mlでも可だが、高齢者で両肩に打つ場合はキシロカインによりふらつき等が生じるため注意が必要)
痛みが軽度〜中等度の時:
ヒアルロン酸製剤1アンプル + キシロカイン®︎1% 2ml
<注射針の太さ>
基本的には、抗凝固薬等の服用者でも使用可能な23Gが望ましい。
<注射手技>
不慣れである場合は、可能な限りエコーガイド下での肩峰下滑液包注射を行うのが望ましいですが、エコーがない施設の場合(当院がそうです涙)には、ブラインドで注射を行う他にないです。
その場合は、肩峰突起の外後方角から1cm前方で、肩峰の下に肩鎖関節前縁に向けて刺入します。4〜5mm薬液を注入したところで、SABが膨らんでくるのが確認できれば確実にSAB内に入ったことがわかります(が、皮下脂肪の厚い人などは確認が困難です)。
<注射頻度>
痛みが比較的強い初期:1〜2週間に1回の頻度
痛みが落ち着いてきたら:2〜4週間に1回の頻度
痛みが持続するなら:3〜4ヶ月間は注射を続ける
- 注射の間隔は最低1週間空けるようにする。
- ステロイドの使用は多くともせいぜい2〜3回にとどめる。
- 注射は衛生的に行い、「注射後に痛みが悪化した」「肩が腫れてきた」「発熱した」といった感染兆候を見落とさないようにする。
といった点にも注意が必要です。
整形外科医へのコンサルテーション・紹介のタイミング
- 夜間痛、安静時痛が強い場合
- 6ヶ月を超えても疼痛が治らない場合
- 可動域制限が強い場合
- 腱板断裂が疑われる場合
とされている文献もありますが、ここはケースバイケースになるかと思います・・・。
さいごに
当院は車で10分ほどの距離に整形外科があるので、車を持っている人は比較的気軽に行くことができますが、 それ以外の人たちはなかなか交通手段が無かったりします(タクシーは料金が高く、バスは曜日が決まっていたり、本数が極端に少なかったり・・・)。
それ以外でも、例えば離島などにおいては、気軽に本土の整形外科へ紹介できなかったりもすると思います。
整形外科医でなくとも、可能な限り整形外科の疾患には対応できる必要があるよなあと痛感する今日この頃です。
同じような境遇の仲間たちの参考になれば幸いです。
<参考文献>
- 今日の診療サポート
- 「肩SAB注射法について 簡便で、確実な刺入が確認可能な方法」
交益財団法人東京都保健医療公社 大久保病院 整形外科 吉峰史博
- 「THE整形内科」 白石吉彦・白石裕子・皆川洋至・小林 只
- 「頼れる主治医になるための高齢者診療のコツを各科専門医が教えます」
木村琢磨・松村真司