僻地で診療をしておりますと、
高齢者の方がたくさん、たくさんいらっしゃいます。
20代〜50代の方が来られるのは非常に稀で、
最も来られるのは70〜80代の方。
中には100歳を越える方もいらっしゃいます。
「便秘薬を使っているのだけど、調節が難しくて下痢になってしまう」
「なんだか元気がでない」
「のどがつかえる感じがするのでカメラとかしたけど、異常ないって言われた」
そういった、西洋医学だけではすっきり解決するのが難しい症状をお持ちの方が来られることもしばしば。。。
他院で、1つ1つの症状に対してそれぞれ薬を処方され続け、気がつくとポリファーマシー状態に陥っている方もたまに来ます。
前の職場では主に外科におりましたので、
漢方と言えば大抵、六君子湯か大建中湯。
でもここに来て、もっと漢方を駆使していく必要があるのかなあと
しみじみと思います。
今日は、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」に基づく、
漢方薬のお話です。
ガイドラインには、高齢者では使用をなるべく控えたり、止めたりするのが望ましい薬剤(=ストップ薬剤)と、
高齢者でも有用性が高いと判断されるにもかかわらず、医療現場での使用が少 ない傾向にある薬剤(=スタート薬剤)が明記されています。
スタート薬剤として記載されているのは
・抑肝散
・釣藤散
・麦門冬湯
・半夏厚朴湯
・大建中湯
・麻子仁丸
・六君子湯
・麻黄湯
・補中益気湯
の9種類になります。
その中でも、診療所で特に用いたい薬剤6種類について、つれづれなるままに
記そうと思います。
1. 麦門冬湯(バクモンドウトウ)
「高齢者のCOPD患者で慢性咳嗽を軽減させ、
風邪症候群後の慢性咳嗽を改善させる」
→この薬理機序は、私が学生の時にも教わるぐらい解明がすすんでいる珍しい漢方。
オフィオポゴニンという成分が気道における抗炎症作用とクリアランス作用をもちます。1日3回から開始し、改善とともに減量します。
2.半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)
「脳卒中患者における嚥下反射・咳反射の改善や、パーキンソン患者での嚥下反射の改善。また、高齢者認知症患者において誤嚥性肺炎の発症を有為に低下させ、自力経口摂取を維持する」
→とあるけど、実際に外来で使うのは「のどになんかつっかえた感じがするんだけど、胃カメラをしても、喉頭ファイバーをしてもなんもなかったとよ・・・」という中年女性というパターンが多いでしょうか。
1日3回から開始し、約2週間で効果が出るのでその後1日2回に切り替えて継続します。
3. 大建中湯(ダイケンチュウトウ)
「外科領域における術後イレウスの予防と治療は勿論、脳卒中患者の慢性便秘を改善させる」
→過去ことあるごとに使ってきた大建中湯。実は上腸間膜動脈の血流を増やすという事が明らかにされているようです。また脳卒中患者の便秘やガス貯留を改善することもエビデンスが得られています。
1日3回投与でもよいが、イレウス解除に使う時にはお湯に2包ずつ溶かして2時間毎投与とのこと・・・ここまで厳密にはしてなかったです。
ガスが多くて、ころころ便のような患者さんに使うときには、麻子仁丸との併用が勧められてます。
4.麻子仁丸(マシニンガン)
「慢性便秘や排便困難を改善する。穏やかに作用するため、高齢者には大黄末やセンナ(=プルゼニド®など)、鉱物性下剤(酸化マグネシウム®など)よりも先に使用を考慮する」
→マシンガンみたいな名前の麻子仁丸。組成に、瀉下作用がある「大黄」が含まれています。それだけでなく、「麻子仁(麻の種)」や「枳実(橙の実)」などの生薬が腸管運動を刺激して、油性成分で便を滑りやすくして排便を助けるようです。「大黄」が多すぎると下痢をしたりお腹が痛くなったりするのですが、「大黄」の量を減らして他の生薬を加えることで、痛みのない自然な排便を促します。適応、下剤を使わないところころした便になる患者さんです。
1日1回眠前投与から開始、効果が薄い時に眠前2包か、分2で服用します。
5. 六君子湯(リックンシトウ)
「外科領域における幽門保存的胃亜全摘術御に生じる胃膨満感を改善するほか、機能性ディスペプシア(functional dyspepsia)を改善する」
→外科にいた時には、上部消化管の術後の人に使ってました。
「機能性消化管疾患診療ガイドライン2014」では、機能性ディスペプシアの治療として、エビデンスレベルA・推奨度2と、結構いい感じで紹介されております。
高齢者には胃食道逆流に使うのも良いようです。
6. 補中益気湯(ホチュウエッキトウ)
「COPD患者に置ける炎症指標及び栄養状態を改善させる」
→と、ガイドラインには明記されております。従来は、虚弱体質や外科手術後の体力の低下した状態の時に用いられてきた薬剤になります。最近では、COPD患者に補中益気湯を投与して、炎症指標及び栄養状態を改善させたとする報告もあります。
・・・とありますが、診療所に来る、たびたび風邪をひく患者さんにも使えます。その背景には栄養状態の悪化や免疫能の低下がしばしばみられます。
「なんか元気がでらんとよ」にうまく対応できる漢方です。
胃腸の消化吸収機能改善・栄養状態改善・慢性炎症の治癒促進が期待されるようです。
この間きた製薬会社の人も、ずっとこれ飲んでるって言ってましたね。。。若いおにいちゃんでしたけど。
1日3回から開始して、適宜漸減します。
漢方は、実・虚・陽・陰・熱・寒・・・・・・・などと
複雑な概念があまりに多すぎて
全て理解するのは心が折れそうになります。
漢方にお詳しい先生ごめんなさい。
「西洋医学ではすっきり治らない症状や訴え」に対応するために、
症状が良くなる可能性のある漢方の力をちょっと拝借する、という
日々の処方の引き出しを増やすスタンスでいこうと思います。
まだまだ、僻地(高齢者)診療は奥が深そうです。