私の勤めている地域では、毎年初夏に村の健康診断があります。
最近は、その検査結果を持ってきてくださる方がちらほら。
血圧が高いと言われた、悪玉コレステロールが高いと言われた、
HbA1cが高いと言われた、お酒の飲み過ぎだと言われた・・・
必要に応じて他院を紹介したり、診療所レベルで可能な精密検査をしたり、具体的な生活指導をしたり、それぞれに適切なマネジメントをしてく必要があります。
今日は、そんな中で
「血尿」
を指摘された人達のマネジメントについてのお話です。
もくじ
血尿とは
血尿とは、
「尿に赤血球が混じった状態のこと」
です。
その程度によって、顕微鏡的血尿・肉眼的血尿に分けられます。
顕微鏡的血尿とは、肉眼的には赤くないけれども、顕微鏡で尿を観察した時に赤血球が認められるもの(1視野5個以上)、
肉眼的血尿とは、目に見てわかるぐらい赤い尿のことで、尿1Lあたり1mlの血液が混入すると色が変化するので肉眼的にもわかるようになります。
(横紋筋融解症などでコーラ色の尿を呈することもあります。この時の尿の色の変化は尿中ミオグロビンによるものなので、血尿の定義とは異なります)
血尿を指摘された時に行う検査には何があるか
血尿を指摘された時に行う検査としては
- 尿再検査
- BUN,Creといった腎機能評価
- 腎臓・膀胱エコーにて形態的変化の確認、悪性腫瘍の検索
この3つがまずは挙げられます。
そこから必要に応じて、
- 尿細胞診(早朝尿×3回提出)
- 泌尿器科コンサルト(膀胱鏡)
- 腎臓内科コンサルト
が考慮されるでしょう。
次から、それぞれの検査について見ていきます。
尿再検査
尿の再検査においては、必ず尿沈渣を見る必要があります。
何故なら、尿中の赤血球の形態と円柱の確認が必須だからです。
赤血球の形がおかしい(コブができてる、ドーナツ状になってる)ときには、腎臓の中の糸球体の病変からくる血尿である可能性が高くなり、
赤血球の形が正常であれば尿管や膀胱の病変、あるいはナットクラッカー現象からくる血尿である可能性が高くなります。
また、赤血球円柱を認める場合は糸球体由来の血尿の可能性がグッと高くなります。
BUN,Creといった腎機能評価
検診で明らかな腎機能低下があれば病院でも再検すべきでしょう。
検尿再検査において血尿が陰性であっても、腎機能低下が著明であれば腎臓内科コンサルトを考慮します。
腎臓・膀胱エコーにて形態的変化の確認、悪性腫瘍の検索
男性、高齢者、喫煙者で、血尿が急に出現した場合には要注意です。何故なら膀胱癌などの悪性腫瘍による血尿の可能性が比較的高いからです。エコーのみならず、必要に応じて腹部CTも考慮します。
その後尿細胞診を行い、陽性であればその時点で膀胱鏡の適応ですし、陰性であっても膀胱癌の危険因子のある人であれば一度泌尿器科コンサルトを考慮します。
血尿の原因疾患としては何があるか
健診で指摘される血尿の原因疾患としては、
- ナットクラッカー現象
- 糸球体腎炎(IgA腎症など多数疾患)
- 基底膜菲薄病
- 尿管癌
- 膀胱癌
が挙げられるかと思います。
ナットクラッカー現象
ナットクラッカー現象とは、若年の痩せ型男性に多いと言われている疾患で、左腎静脈が腹部大動脈と上腸間膜動脈の間に挟まれて圧迫されることにより血尿が出現するというもの。腎臓がうっ血することによって、毛細血管などが破綻して、血液が尿に混入して血尿を呈します。これは良性疾患ですので、基本的には自然軽快します。
糸球体腎炎
糸球体腎炎はたくさんの種類があります。蛋白尿を伴うものがほとんどですので今回詳細は割愛しますが、若年者でIgA腎症の初期に関しては血尿のみのことも多いので注意が必要です。
基底膜菲薄病
基底膜菲薄病は聞きなれない病名ではあります。反復性または持続性血尿症候群であり、多くは自覚症状がありません。健常者の1%にみられ、家族歴がある例が半分を占めます。
蛋白尿は認めないか、あってもごく軽度です。一般的には腎機能の低下することは無いと言われていますが、経過観察は必要です。
尿管癌・膀胱癌
言わずと知れた、悪性腫瘍です。上にも述べましたが、高齢・男性・喫煙者がリスクファクターとなります。出血量が多いと凝血塊を作り、それが尿道に詰まることによって尿が出なくなる、膀胱タンポナーデを起こすこともありますので注意が必要です。尿が急に出なくなったらとりあえず病院へ行きましょう。
血尿があっても経過観察で良い場合と、専門医への紹介が必要な場合
経過観察で良い場合
- 尿の再検査で陰性であり、悪性腫瘍の危険因子が無い人の場合
- 尿の再検査で陽性であったが、諸々の精査が行われて、悪性腫瘍の危険因子が無い人の場合
- 尿の再検査で陽性であったが、蛋白尿や腎機能低下を伴わない血尿(1+or2+)の場合
となるでしょう。
※ただし3+の血尿の場合は、腎機能低下を伴わない血管炎が中に含まれる場合もあるので、ちょっと注意が必要となります。
専門医への紹介が必要な場合
上でも述べましたが、
- 腎機能低下がある場合(具体的な紹介基準はCKDガイドラインに則る)
- 悪性腫瘍が疑われる場合
それに加えて、
- 血尿+蛋白尿が指摘される(ともに1+以上)場合
です。急激に腎機能が低下していく、急速進行性糸球体腎炎なども含めた糸球体腎炎の可能性が高くなるので、腎生検ができる病院へ紹介する必要があります。
血尿のみの場合、将来透析になるのか
2011年に論文が発表されています。
血尿を認める16〜25歳の若者を22年間にわたって調査したものになります。あくまでも「持続的血尿のみ(蛋白尿や明らかな腎疾患のある者は調査対象外)」の人たち3690人を調査すると、結果的に26人(0.7%)が末期腎不全へと陥るというもの。
末期腎不全になるリスクは100人に1人未満ではありますが、それでも定期的な検尿、腎機能評価の必要性を感じさせる論文でした。
さいごに
今日は「血尿」の話でした。
血尿を認める疾患、色々ありますよね。
(膀胱炎とか尿路結石とか血尿が出るのは当然ですけど、あくまでも健診に的を絞った話としました)
結論として、
「いっつも健診で血尿を指摘されるけど、面倒臭いから病院へ行かない」
というのは、辞めておいた方がよさそうです。
たとえ血尿のみであっても、経過観察は必要です。
放置しないで、定期的に受診しましょうね。
参考文献
- jmed 危ない蛋白尿・血尿 日本医事新報社
- 今日の診療サポート「血尿」
- 「Persistent Asymptomatic Isolated Microscopic Hematuria is Israeli Adolescents and Young Adults and Risk for End-Stage Renal Disease」
Vivante A, et al : JAMA 306:709-736,2011